女性アスリートのためのヘルスケア外来

当院では部活動レベルからプロの方まで幅広い女性アスリートを対象にしています。産婦人科医ができるアスリートのヘルスケアは大きく分けて二つあります。

まず試合に向けて最大限のパフォーマンスを発揮できるように、月経をコントロールし、体のコンディションを整えること、二つ目はエネルギー不足による無月経や骨折を予防していく事です。

私自身が、体を動かすことが小さな頃から大好きで、色々なスポーツをやってきて、今はゴルフをメインに日々楽しんでいます。スポーツを通して学ぶことがたくさんある中で、スポーツが健康を害しては本末転倒だと思いますので、あとからこうしておけばよかったなという方が少しでも減るように、婦人科医の視点で、微力ながらアスリートのサポートをさせていただきたいと考えています。

月経と競技

ベストパフォーマンスを発揮するためには、心身のコンディションを整えて競技に臨む必要があります。一般的に月経時期や月経前は月経痛・過多月経・PMSやホルモンの影響でコンディションが悪い傾向になりがちです。

月経痛・過多月経・PMSなどの月経に伴う症状や月経周期は低用量ピルでコントロールができます。初潮後、身長の伸びがとまったら、ピルの使用が可能です。悩んでいる女性アスリートの皆さんや親御さん、競技レベルは全く問いませんので、一度相談にいらっしゃってください。

エネルギー不足による月経周期異常(稀発月経、無月経)・骨折など

女性アスリートの三主徴はlow energy availability(利用可能エネルギー不足)、視床下部性無月経、骨粗鬆症と定義されています。

運動によるエネルギー消費量に見合った食事量が確保されていない事が原因でエネルギー不足となり、無月経になるわけです。(無月経の全例でエネルギー不足が原因となるわけではありません。)審美系競技(新体操やバレエなど)や持久系競技でエネルギー不足の頻度が高いと言われ、BMI 17.5未満や標準体重の85%未満の場合、エネルギー不足を疑います。

エネルギー不足が続く場合、発育や精神面、心血管系、骨、全身へ悪影響を残す事がありますので、まずは運動する分、しっかりエネルギーを摂取する必要があります。過度な減量によるボディーイメージの喪失で摂食障害を認める場合もあります。その場合は、精神科の併診もお勧めします。

また体重が回復しても月経が戻らない場合や、競技特性上、体重を増やす事ができない場合は骨粗鬆症やそれに伴う疲労骨折の予防のため、ホルモン補充をお勧めします。ホルモン補充は低用量ビルでは代用できず、経皮的なホルモン剤を使用します。

必要なエネルギー量は?

昔から糖質はダイエットの敵のように考えられていますが、病院に入院すると栄養士さんが作った献立のご飯の量にびっくりする事があると思います。要は皆さんが思っているより、糖質の必要量は多いという事です。

アスリートの糖質摂取ガイドラインによれば1日1-3時間の中〜高強度の運動で6-10g/kg/日、4-5時間の中〜高強度の運動で8-10g/kg/日の糖質摂取量が目安となっています。ご飯お茶碗いっぱい150gが糖質56g程度、食パン6枚切り1枚28g、うどんひとたま43gだそうで、体重50kgの人で1-3時間の中〜高強度の運動をする人は最低でもお茶碗のご飯を5杯程度食べる必要があるという事です。

また糖質だけでは、体内にフルマラソンを走りきるだけのエネルギーを貯蓄しておけません。糖質と共に脂質もエネルギーに変換され、からだを動かす原動力になります。エネルギー消費量に見合うだけの食事摂取量がなければ、パフォーマンスを最大限に発揮することはできません。

10年先も健康なじぶんをイメージして、バランスの良い食生活を心がけましょう。佐藤郁子さん監修の『女性アスリートの「食事と栄養」パフォーマンスを高める体の作り方(コツがわかる本!)』が読みやすくてお勧めです。

ドーピング禁止物質の使用に注意

産婦人科診療で使うお薬で使用不可能なホルモン剤はダナゾール、ブセレリン、リュープロレリン、アロマターゼ阻害薬、クロミフェンなどが挙げられます。

また漢方薬に含まれる麻黄、附子、呉しゅゆ、細辛、南天なども禁止物質になります。それらに当てはまらなくとも、漢方薬を構成する生薬は動植物や天然物から由来しているため、すべての含有成分が明らかではなく、禁止物質を含んでいないと保証する事ができないため、使用は控えるのが望ましいとされています。サプリメントに関しても同様に含有成分の内容確認が難しいため、注意が必要です。

世界アンチ・ドーピング規定では競技レベルによるカテゴリーと年齢や障害に基づくカテゴリーを定義しています。これらのカテゴリーによって、適用される具体的な手続きや制裁の柔軟性が異なりますので、JADAのHPを参考にしてください。また、薬品に対する問い合わせは薬剤師会アンチ・ドーピングホットラインをご利用ください。

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